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まる1年ほどして、つまり94年末頃からどうも様子が変わってきた。ブームが去ったのだ。部数にも影響が出始め、頭打ち傾向は顕著となる。一過性のブームに惑わされない本物のUターン者を誌面で紹介し、そのノウハウを広く世に提案するための議論が連日、編集部内で重ねられた。そこで出てきたのが、「Uターンを決断する際に、妻が大きな役割を果たしているようだ」という見方だった。今から思えば、当たり前のことなのだが。

 

すでに定着済みの学生・現業層

 

そもそも、Uターンには階層性がある。完全に定着している層と、ほとんど浸透していない層とに見事に分かれるのだ。前者の代表例は学生と現業労働層だ。
新卒学生のUターン率は高い。直接生まれ育った地に戻らないにしても、近隣の中核都市、経済圏ブロックに戻る学生はかなりいる。
就職先は?@公務員、教員?A旧公社系企業(鉄道、電気、ガスなど)?B地銀および地元金融機関(信金、信組など)-が、いわゆる「新卒Uターン就職御三家」。以下、小粒だがピリリと光る地域立脚型ベンチャー企業と続くが、残念ながら採用数は限られる。それでも、御三家の求人枠は安定しており、今も昔も定着するUターンの世界がここにある。現業労働者の間でも、Uターンは常識だ。ライバル社商品であまり使いたくないのだが、生来心が広いのであえて用いれば「ガテン」の世界。建築、建設、土木。地域間移動は珍しくない。
最近ではそこに、エンジニアが入りつつある。技術一本で企業間を移動する層が、SE(ソフトエンジニア)をはじめとして、着実に形勢されつつある。新卒就職でも理工系学生がバブル崩壊なんのその、引っ張りだこの状態が続いていたことを思えば、当然のことかもしれない。地方の中堅企業でも、「優秀な技術者が欲しい」という声は強まるばかりだ。

 

憧れるなあ、田舎暮らし

 

反対に、最もUターンから距離のある世界はどこだろう。文系です、文系。つまり、私。よく取材先で言われた。「加藤さん自身はなぜUターンしないのですか?」
答えに困るんだ、これが。話を戻そう。
編集員が各々のネットワークでかき集めてきた都会で働く「Uターンに踏み切れない人の声」の主役はなんといっても文系事務職・営業職。とくに家庭を持ち、子どもができ、家のローンが両肩を覆いつくしてしまった30代半ば以上の文系サラリーマンは動かない。それなのに、意識面ではめっぽうUターン志向なのだ。
「会社の帰りに車飛ばして清流に竿を振ったらどんなに気持ちいいだろうな」「陶芸だよ陶芸。すべてを忘れるねえ。広い庭にガス釜を設けて思う存分作れたらなあ」「4WDのキャンピングカー買いたいね。週末には地元の人しか知らない渓谷に分け入って家族水入らずで大いに羽根をのばすんだ」
取材にかこつけ、飲食代当方持ちなのが心を和ませるのか緩ませるのか、普段上司の悪口しか

 

 

 

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